FIPアドバイス|東京ウエスト動物病院|東京都小平市学園東町の動物病院

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FIPアドバイス

猫伝染性腹膜炎(FIP)に対する新しい抗ウイルス薬治療(注射薬の在庫あります)
国際猫医学会 ISFMにおいてもこの治療プロトコールは推奨されています。

1.猫伝染性腹膜炎(FIP: Feline Infectious Peritonitis)とは?
猫伝染性腹膜炎(FIP)は、世界中で発生している猫のウイルス性疾患です。 診断には複雑な面があるこの病、今までは発症した場合、致命的だったのですが、ここ数年で新しい治療法が見つかり大幅に進歩してきました。いくつかの抗ウイルス薬が伝染性腹膜炎(FIP)の治療に効果的であることが示されています。愛猫が伝染性腹膜炎(FIP)と診断された場合は、獣医師に相談して治療法について話し合うことができるようになりました。

2.新しい治療薬について
前述のように数年前までは猫伝染性腹膜炎(FIP)は発症猫のほとんどにとって致命的な病気でした。従来の治療は抗炎症療法、点滴などの対症療法やインターフェロン療法が主体で、それでも予後の改善は少しずつ得られていました。しかし、本格的な発症に対しての効果は乏しく、致死的な経過を取ることが多い状況でした。ここ数年間で考え方は大きく変わり、新しい抗ウイルス薬が伝染性腹膜炎(FIP)の治療に効果的であることがわかってきました。

新しい抗ウイルス薬
現在、抗ウイルス薬は CureFIP Japan から入手できるようになっています。FIP情報《FIP(猫伝染性腹膜炎)とFPV(猫汎白血球減少症ウイルス)》も公開されています。
当院でも注射薬の在庫はありますので、すぐに治療に入ることはできます。84日間の長い継続治療については、どの薬をどれくらい使うかについては猫の容態を診る中で検討することになります。その上での購入情報については当院から提供致しますので、飼主様ご自身で直接、CureFIP Japan から薬を購入していただき、それを治療用として使っていく形を準備しています。

従来、FIPが発症した場合の治療はなかなか難しいことが多かったのですが、2019年、Dr. Pedersonにより『GS−441524』という薬剤がFIPの治療に極めて有効であることが報告されました。
Efficacy and safety of the nucleoside analog GS-441524 for treatment of cats with naturally occurring feline infectious peritonitis
(Niels C Pedersen, J Feline Med Surg, 2019)

その後、2023年7月の英国および豪州からの報告においても高い効果が得られていることが示されています。
Thirty-two cats with effusive or non-effusive feline infectious peritonitis treated with a combination of remdesivir and GS-441524(Jodie Green, J Vet Intern Med, 2023)
生存率:81%(※治療開始後3日以内の死亡を含まない場合、生存率:92%)

Outcomes of treatment of cats with feline infectious peritonitis using parenterally administered remdesivir, with or without transition to orally administered GS-441524
(Sally J. Coggins, J Vet Intern Med, 2023)
生存率:86%(※治療開始後2日以内の死亡を含まない場合、生存率:96%、再発率:12%)

2023年8月の国際猫医学会(ISFM)からの報告
Feline Infectious Peritonitis (FIP) (feline coronavirus)
においてもこの抗ウイルス薬を用いた治療プロトコールは効果が高いと紹介されています。効果が得られた際には注射薬から経口薬への切り換えも可能と紹介されています。
寛解率は 100%とは言い切れません。極度に重症の場合は命を救えない場合もあります。
以下に、FIPに関する現況情報についてご紹介致します。

3.原因|突然変異
猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルスと呼ばれるウイルスの感染によって引き起こされます。コロナウイルスは、さまざまな動物の上気道(鼻と喉)または消化管(腸)に感染することが多い一般的なウイルスのグループです。猫伝染性腹膜炎(FIP)を引き起こす猫コロナウイルスは猫にのみ感染します。猫コロナウイルスの感染は猫の間で非常に蔓延しており、特に多数の猫が一緒に飼育されている場合に顕著です。家庭で飼われている猫の25〜40%は猫コロナウイルス(FCoV)に感染していると推定されています。多頭飼いまたはコロニーの場合の猫の感染率は80〜100%に増加します。このように、猫コロナウイルスは多くの猫が保有しているとされ、猫の腸管に感染する低病原性の猫コロナウイルス(FCoV)が突然変異し、腸管以外の場所に広がり過剰な免疫反応が生じることで引き起こされる病態とされています。突然変異の原因はストレスや飼育環境の変化、他のウイルス感染などの影響が考えられていますが、特定されている要因はありません。猫伝染性腹膜炎(FIP)はいずれの年齢でも発症するとされていますが、多くは3歳以下の若い猫での発症が多いです。

4.どのような猫が罹患しやすいか
年齢では、猫伝染性腹膜炎(FIP)はあらゆる年齢の猫に発生する可能性があります。傾向としては若い猫によく見られます。診断された事例の約80%は生後2歳未満の若い猫で、多くの事例は生後4〜12ヶ月程度の子猫です。猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルス(FCoV)感染が広がりやすい環境である集団またはコロニー(特に繁殖家庭)でよく見られるのは1つの特徴です。猫の頭数が多い混雑した環境もストレスの一因となり得ます。猫の免疫反応が損なわれるため、病気の発症要因につながる可能性があります。複雑ではありますが、遺伝が病気の罹りやすさに関連している可能性があるというエビデンスも知られています。

様々な品種で発症は見られますが、純血種(アビシニアン、アメリカン・ショートヘア、サイベリアン、ヒマラヤン、ブリテッシュ・ショートヘアー、ベンガル、ラグドールなど)でFCoVの影響を受けやすいとも言われています。

5.発症するかどうかはコロナウイルスの量と猫の免疫力によって左右される
猫コロナウイルスは多くの猫の糞便中に見られます。本症を引き起こす猫コロナウイルスと一方、まったく兆候を引き起こさない猫コロナウイルスがありますが、両者を識別することは難しい(不可能)とされています。ほとんどの猫では、感染しても兆候がないか、軽度の下痢が起こるだけで、治療しなくても治ることも多いです。下痢に対する対症療法は行うことが多いです。従いまして、猫のコロナウイルスが見つかったからといって、その猫が伝染性腹膜炎(FIP)を発症しているとは限りません。発熱、食欲不振、体重減少など体調に問題がなければ発症していないと考えられます。しかし、猫の体内でウイルスが変異(変化)し、免疫系が特定の反応を示すと、猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症する可能性が出てきます。発症した場合はウイルスが体中に広がり、猫の免疫系と相互作用するため、さまざまな症状を引き起こすことにつながります。

猫コロナウイルスを持つ猫はたくさんいますが、すべての猫が猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症するわけではありません。健康に暮らす猫もたくさんいます。発症のキーは、コロナウイルスの量と猫の免疫力のバランスに左右されると言われています。日頃から猫の健康管理に努めることは大切です。環境の急激な変化でのストレス(引っ越しや新しいペットが増えた、永く一緒にいた猫が亡くなったなど)で免疫力の低下が起こらないようにしてあげることがポイントです。さらにおいしいフード、快適な飼育環境(温度、湿度、騒音など)、飼主の愛情(声かけ、スキンシップなど)を保ちましょう。そうでない場合は発症リスクは高まると言われています。

6.臨床症状
影響を受ける体の部位や免疫系の反応に応じて、臨床症状はさまざまです。猫伝染性腹膜炎(FIP)の初期兆候は通常、あいまいで、変動する発熱(高熱)、倦怠感、食欲の低下が一般的です。数日または数週間(場合によっては数か月)後に、別の兆候が現れます。
猫伝染性腹膜炎(FIP)は「湿性(ウエット、滲出性)タイプ」と「乾性(ドライ)タイプ」に分類されます。胸水(呼吸困難を引き起こす)や腹水(腹部膨満を引き起こす)が貯留する『湿性(ウェット)タイプ、滲出型』では血管の損傷と炎症(「血管炎」と呼ばれます)が引き起こされ、血液から胸部や腹部に液体が漏れ出すため、体液が貯留します(胸水、腹水)。腹部に体液が溜まるケースは、この病気の元々の名前である「腹膜炎」を示したものです。乾性(ドライ)タイプでは、リンパ節、肝臓、眼などに肉芽腫(ウイルスと炎症細胞の塊)性炎症を生じます。目では眼内痛、激しいブドウ膜炎(眼内炎)、白内障の速い進行、角膜混濁、緑内障などが特徴的です。
その兆候は影響を受けた器官によって異なります。この炎症は、症例の約 30% で目に影響を及ぼし、症例の約 30% で脳に影響を及ぼします。肝臓、腎臓、肺、皮膚などの体内のほぼすべての組織にも影響を与える可能性があります。従って、神経疾患(例えば、ふらつき、不安定な歩行やけいれん)を始め、眼内での出血、肝障害、腎障害、腸疾患など広範囲に及ぶ場合もあります。

一部では、湿性と乾性が混合しているケースも知られています。猫伝染性腹膜炎(FIP)の診断の課題の1つに、臨床徴候があいまいな時があり、猫伝染性腹膜炎(FIP)に特有のものではない場合はわかりにくくなることもあります。

初期症状としては、
・発育不良、体重減少、発熱、食欲不振、嘔吐、軟便・下痢など

進行増悪例では、
・眼の異常(ブドウ膜炎、高眼圧、角膜の浮腫、眼内痛、白内障など)、子猫では呼吸が苦しい(胸水)や腹部の膨満感(腹水)、黄疸(目、粘膜、皮膚の黄色化)、腹腔内リンパ節の腫大、腸間膜などに肉芽腫性腫瘤(しこり)、神経症状(てんかん発作、運動失調、眼振)など

7.診断
本症の診断に特有の臨床徴候や診断を確定するための血液検査項目はないため、診断が非常に難しい病気と言えます。猫が猫コロナウイルスに感染すると抗体が作られます。臨床の現場では、血液を用いての猫コロナウイルスの抗体価を調べることは行いますが、抗体価が高い=猫伝染性腹膜炎(FIP)の発症ではありません。結果についての判断は、参考の値として飼主様へ説明をしていきます。

臨床症状、血液検査、PCR検査、生検、レントゲン検査、超音波エコー検査などを組み合わせて総合的に診断しますが、以下の点は重要なポイントとなります。

7-1. 若い猫、コロニー猫
7-2. 以下の血液所見は猫伝染性腹膜炎( FIP)に特有のものではありませんが、症状と組み合わせて複数の変化が得られた場合は猫伝染性腹膜炎( FIP)と診断される可能性は高くなります。
 ・ リンパ球減少症(白血球の一種であるリンパ球の数が少ない)
・ 好中球症(白血球の一種である好中球の数の増加)
・ 貧血(赤血球の減少)
・ グロブリン濃度の上昇(血液中の蛋白質の主要なグループの1つ)
・ 肝臓酵素の上昇(例、ALT、ALP)
・ ビリルビンの上昇(および黄疸または歯ぐきや目の黄ばみ)

これらの異常の多くは、病気の初期段階では見られない場合もありますが、病気の進行につれて明らかになることがあります。従って、経過を追いながら再確認していくことが大切です。

胸腔や腹腔に体液が貯まる場合は、体液サンプルを採取し、細胞とタンパク質の内容について分析します。含まれる細胞の種類や量、存在するタンパク質の種類や量、ウイルス検査(PCRなど)などがあります。胸水。腹水にの有無を見るのにレントゲン検査、超音波エコー検査は有用です。病気の進行に応じて再検査の必要が出る場合もあります。

7-3. 他には、次のような検査が役立つ場合もあります。
 ・血液中のタンパク質のさらなる分析(例:プロテイン酸-1-アルファ糖タンパク質[AGP]の測定)
 ・脳のMRIスキャン
 ・神経学的徴候がある場合は、脳脊髄液サンプル(脳と脊髄を囲む液体)の評価
 ・眼に異常がある場合は、眼からの液体(房水)の評価
 ・臓器やリンパ節病変の針によるサンプル(針生検)
 ・手術時に採取した組織サンプルの病理検査

7-4. 確定診断
診断を確定することは難しいですが、一般的に、典型的なタイプの胸水や炎症を見つけて、コロナウイルスを見つけることができれば確定につながります。コロナウイルスの有無を調べる方法には、免疫細胞化学、免疫組織化学 (ウイルスを染色して検出できるようにする)、PCR (ウイルスの遺伝物質を検査する) などがあります。これらの検査は、体液、針生検サンプル、生検サンプルなどを用いて行うことができます。猫伝染性腹膜炎(FIP)陰性の猫でもコロナウイルスを持っている可能性がある(キャリア)ため、ウイルスを認めたからといって発症しているとは限りません。臨床症状、コロナウイルス抗体価、画像(レントゲン検査、超音波エコー検査)検査所見、体液や針サンプルなどからのウイルス検出など総合的に組み合わせる必要があります。

8.猫伝染性腹膜炎(FIP)の予防は難しい
本症の予防は難しいとされています。一般家庭においては、ゆとりのある飼育環境の確保:衣食住(毛並の管理、フード、温度、湿度、騒音など)、愛情(声かけ、スキンシップ(嫌がる子もいますが))などは重要とされています。このような適切な管理は予防につながると思われます。逆に、引っ越し、新しいペットが増える、飼主の愛情が分散するなどは課題です。

一般的に、猫コロナウイルス(FCoV)を保有している猫は既にかなりの数がいること、また、便から生涯にわたりウイルスを排出し続ける猫もいることなどから、特に、多頭飼いやブリーダー、ペットショップのような飼育環境だと感染を防ぐのはなかなか難しいと言われています。

9.繁殖家庭におけるリスクの軽減
実際、猫伝染性腹膜炎(FIP)の発症は家庭猫ではそんなに多く見られるものではないので、発症リスクを減らすための方策をふだんから行うメリットは大きいと思います。リスク回避には、猫の数が比較的少ない所から入手したり、猫を小さなグループ(例えば、1世帯に5匹未満)に分けて飼う、安定した良い生活環境を提供することによって発症リスクは最小限に抑えることができると思います。

繁殖猫舎では猫コロナウイルス感染症を根絶することは非常に難しいとされていて、根絶を試みる手段にはあまり意味はないとさえ言われています。より現実的なアプローチは、前述のように猫伝染性腹膜炎(FIP)が発症するリスクを抑えるための措置を講じることです。
 ・猫の多頭飼育を避ける、一度に複数の猫の分娩を避ける。
 ・猫を小さなグループに分けて飼育する。できれば1グループに4匹以下とする。
  これにより、猫コロナウイルス(FCoV)感染のリスクを減らすことができます。
・グループ間の交流は避ける。
 ・トイレは個別にし、トイレと食器・水入れのエリアは離し、毎日、掃除と消毒を行う。
 ・交配は、猫コロナウイルス(FCoV)を排出する可能性が低い成猫で高年齢の猫を優先的に使用する。
 ・猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症する子猫を繰り返し産む母猫や父猫の繁殖は中止する。
 ・出産直前に母猫を隔離し、新生子と母猫を他の猫達と接触しないように保つ。
 ・猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症した猫は、数ヶ月間繁殖は中止し、治療、経過を見る。

良好な衛生状態と過密状態を避けることは、猫伝染性腹膜炎(FIP)の発症リスクを最小限に抑えるための重要な戦略です。理想的には個別飼育が良いのですが、それができない場合は4頭以下の小グループでの飼育、良好な衛生状態維持のための毎日のトイレ清掃・消毒、ストレスを避ける生活環境および予防医療の提供は大切なことです。

当院では FIP アドバイスを実施しています。診察、治療をご希望の方は連絡を入れて下さい。
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