トーキョーウエストブログ
TOKYO-WEST-BLOG
トーキョーウエストブログ
TOKYO-WEST-BLOG
【東京ウエスト動物病院 東京都・小平市】
「後ろ足を引きずるようになった」
「歩くと腰がふらつく」
「足の甲を地面にすって歩いている」
犬にこのような症状が見られたら、変性性脊髄症(DM)という神経の病気が隠れているかもしれません。
DMは、痛みをほとんど伴わず、後ろ足からゆっくりと麻痺が進む病気です。
今回は、当院で診療したウェルシュ・コーギーの症例を交えながら、症状・原因・検査・日常生活のサポートについて解説します。
■1.変性性脊髄症(DM)とは?
変性性脊髄症(Degenerative Myelopathy:DM)は、背骨の中を通る「脊髄(せきずい)」の神経が、少しずつ障害されていく病気です。
脊髄は、脳からの指令を手足に伝える大切な通り道です。
この働きが障害されると、最初は後ろ足の動きが不自由になり、進行すると前足にも症状が広がります。
DMの大きな特徴は、通常、痛みを伴わないことです。
ウェルシュ・コーギー、ジャーマン・シェパード、ボクサーなどで比較的多く報告されていますが、コーギーだけの病気ではありません。
高齢犬に多く、一般に8歳以降で症状が現れます。
■2.どんな症状が出るの? 病気の進み方
DMでは、次のように症状が少しずつ進みます。
① 初期:後ろ足の動きがおかしくなる
後ろ足をすって歩く
爪の上側が削れたり、出血したりする
腰が左右にふらつく
後ろ足が交差する、足先が裏返る
② 中期:後ろ足で立つことが難しくなる
後ろ足の筋力や運動機能が低下し、立ち上がりや歩行が難しくなります。腰を持ち上げられず、後ろ足を引きずって進む場合もあります。
③ 後期:前足や呼吸にも影響する
さらに進行すると前足にも麻痺が広がり、重症例では発声や呼吸に障害が現れることがあります。また、進行すると排尿や排便のコントロールが難しくなることもあります。
進行速度には個体差があります。後ろ足の症状が出てから数か月〜数年にわたって進行することがあります。
なお、痛みがある場合や急に歩けなくなった場合は、椎間板ヘルニアなど別の病気にも注意が必要です。

■3.当院で経験したウェルシュ・コーギーの症例
9歳の雌のウェルシュ・コーギーを診療しました。
最初の症状は、左後ろ足をすって歩くことでした。
発症から2か月弱の時点で遺伝子検査を実施したところ、DMに関連するSOD1遺伝子の変異が確認されました。
その後も、
といった症状が少しずつ進行していきました。

左後ろ足のすり歩き
後ろ足の足先がうまく接地できず、
引きずるように歩く様子を
表したイメージ画像です。
※当院で診療した
症例の実際の写真ではありません。
左後ろ足から始まり、痛みを伴わず徐々に進行した歩行障害とSOD1遺伝子検査の結果などから、当時はDMが強く疑われると臨床的に判断しました。
この症例は、2011年に旧ブログで紹介したものです。
※SOD1遺伝子検査はDMの診断に役立ちますが、変異の確認だけでは確定診断になりません。生前は、ほかの脊髄疾患を除外しながら総合的に判断します。
■4.原因は遺伝子? どうやって診断するの?
DMには、SOD1という遺伝子の変異が深く関係しています。
SOD1は、細胞を酸化ストレスから守る働きに関係するタンパク質を作る遺伝子です。
この遺伝子に変異があると、異常なタンパク質が神経に悪影響を及ぼすと考えられています。ただし、神経が障害される詳しい仕組みには、まだわかっていない部分があります。
● 遺伝子検査でDMはわかる?
SOD1遺伝子の検査では、DMの発症に関連する変異の有無を調べることができます。
一般に、変異を2つ持つ犬は発症リスクが高くなりますが、必ず発症するわけではありません。
つまり、遺伝子検査はDMの診断に役立ちますが、それだけで確定診断はできません。
● 動物病院ではどんな検査をするの?
主に次の検査を組み合わせます。
神経学的検査: 歩き方、姿勢反応、反射などを確認
血液検査: 全身状態や関連する病気を確認
SOD1遺伝子検査: DMに関連する遺伝的リスクを評価
MRIなどの画像検査: 椎間板ヘルニア、脊髄腫瘍などを調べる
MRIは、DMそのものを画像で確定するためではなく、似た症状を起こすほかの脊髄疾患を除外するために重要です。
■5.治療方法はあるの? 日常生活のサポート
残念ながら、現在のところDMを完治させる治療法は確立されていません。
また、ステロイドや抗酸化サプリメントなどによって、病気の進行を確実に抑えられるという科学的根拠もありません。
そのため、残された運動機能をできるだけ維持し、快適に生活できるよう支えることが治療の中心となります。
① 無理のない運動とリハビリ
歩ける間は、状態に合わせた散歩や歩行訓練を続けます。無理をさせず、疲労や転倒に注意することが大切です。
② 補助ハーネスの活用
後ろ足を支えるハーネスなどを使い、立ち上がりや歩行を補助します。
③ 車いすによる歩行支援
後ろ足の麻痺が進んでも、犬用車いすによって散歩や屋外活動を楽しめる場合があります。
④ 自宅環境の工夫
滑りにくい床材、足先を保護する靴、寝床の工夫などによって、けがや床ずれを予防します。排尿・排便の状態にも注意しましょう。

■6.後ろ足がおかしいと感じたら、早めの検査を
高齢犬の後ろ足のふらつきや歩行異常は、DMだけでなく、椎間板ヘルニア、関節疾患、脊髄腫瘍などでも起こります。
特に、椎間板ヘルニアはDMと似た症状を示すことがあり、両方の病気を併発することもあります。
・犬の椎間板ヘルニアとは?|後ろ足が立たない原因・症状・治療と手術の目安
治療できる病気を見逃さないためにも、早い段階で原因を調べることが重要です。
東京ウエスト動物病院では、神経学的検査と整形外科的検査、全身状態の評価を組み合わせて診察します。
必要に応じてMRI・CT検査が可能な専門施設と連携し、診断とその後の治療・生活管理につなげます。
参考資料
岐阜大学動物病院のDM解説
コーネル大学獣医学部の解説
Merck Veterinary Manual(2026年10月更新)

Web問診はこちら – 東京ウエスト動物病院 TEL:042-349-7661 FAX: 042-349-7662
歩く力が弱くなっても、その子らしい毎日を大切に。
後ろ足の小さな変化を見逃さず、早期の診断と適切なケアで、愛犬が少しでも長く、穏やかに過ごせるよう支えていきましょう。東京ウエスト動物病院