トーキョーウエストブログ
TOKYO-WEST-BLOG
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東京ウエスト動物病院 副院長の佐藤 隆です。
1.こんな症状はありませんか?
猫の飼主様から次のようなご相談をよくいただきます。
・同じ場所を何度もしきりに舐める、噛む、ずっと痒がっている
・首や顔をしきりに掻く、毛が抜けてピンクや赤くなった皮膚が見える
・治ったと思ってもすぐ再発する
・薬をやめるとすぐに再発する
・原因がわからない、食事を変えても改善しない
「なかなか治らず、困っている」、「何とかしてあげたい」、「様子を見ていていいのか不安…」 そう感じている方も多いのではないでしょうか。
これらの症状の原因の一つが猫アトピー性皮膚症候群(FASS)です。
2.猫アトピー性皮膚症候群(FASS)とは?
FASSは、環境中のアレルゲンに対して皮膚が過剰に反応する病気です。近年、世界的にも増加が報告されており、猫の皮膚病の中でも決して珍しくない病気になっています。

人のアトピーと似た体質的な病気で、赤く盛り上がった皮膚、ジュクジュクした傷、舐め壊すなどは特徴的な所見です。「完治させる」というより「コントロールする」ことが重要になります。
猫では従来、ノミアレルギ-、食物アレルギーという言葉はありましたが、一方、原因が特定できないアレルギー、つまり非ノミ・非食物誘発性過敏性皮膚炎というものがあり、2021年にオーストラリアの国際獣医皮膚科学会(INTERNATIONAL SOCIETY OF VETERINARY DERMATOPATHOLOGY)はVeterinary Dermatology誌の中で、猫アトピー皮膚症候群(FASS:feline atopic skin syndrome)という名前に再定義しています。
猫アトピー症候群(Feline Atopic Syndrome:FAS)は、アレルギー体質に由来する皮膚、消化器、呼吸器系の病気が知られています。その中で、皮膚のかゆみや炎症を主体とするものを猫アトピー性皮膚症候群(FASS)〔下表、左から2つ目の赤枠の項目〕として区分されています。下図ご参照ください。

引用・改編:Clinical signs and diagnosis of feline atopic syndrome: detailed guidelines for a correct diagnosis, Veterinary Dermatology、19- January 2021.
世界の研究においても本疾患は増えていることがわかっています。室内飼育の増加、アレルゲン曝露の変化、遺伝的素因、診断精度の向上などで、近年、増加しています。猫の皮膚病の中で10〜20%がアレルギー関連ともされています。ですから決して珍しい病気ではなくなってきています。
3.特徴的な4症状
FASSには、特徴的な皮膚病変の出方があります。

の4つの症状が特徴とされています。
イラストで示すと以下のようです。

上記の所見が単独で現れることもありますが、混在する場合もあり、同じ病気でも症状が違って見えることもあります。このようなことから、FASSでは同じ病気でも違って見えることもあります。
一方、FASSと誤診されやすい病気、間違えやすい似た病気としては、

などが挙げられます。これらを正確に見極めることは大切です。
4.当院でFASSと臨床診断した事例は以下のようです。
・頭部を中心に掻痒を示す猫
・ソマリ、7歳、メス避妊、4.6kg
顔周り(顎下、まぶた、口唇など)の紅斑、痂皮形成、脱毛などが見られました。

・ミックス猫、13歳、♂去勢、5.3kg
右肩周辺の皮膚に重度の脱毛、紅斑、痂皮形成、掻爬痕が見られました。

・上口唇部中央に見られた猫アトピー性皮膚症候群(FASS)の猫。
・ラグドール、15歳、♂去勢、6.25kg(↓)
上口唇中央部に自己誘発性脱毛症が見られています。さらに、上唇粘膜には白いプラーク(ベタっと盛り上がって広がった、平たい病変)様、肉芽腫様(硬いシコリのようなかたまり)病変も見られました。

口唇部の皮膚病変からは好酸球が多数見られていました。

・舐めることを主体とした猫アトピー性皮膚症候群(FASS)の猫
・ミックス猫、11歳、メス避妊、7.75kg
腹部皮膚のびまん性の自己誘発性脱毛が見られ、一部には小さな痂皮形成の丘疹も見られました。お腹を舐める行為は4年間続いていました。

・胸元や後肢内側など体の複数ヵ所に見られた猫アトピー性皮膚症候群(FASS)の猫
・日本猫、2歳、メス避妊、3.7kg
胸元ではびらん性皮膚プラーク(皮膚がベタっと盛り上がって広がった、平たい病変)が見られました。

・両側上唇に慢性経過の重度の潰瘍が見られた猫アトピー性皮膚症候群(FASS)の猫
・アメリカンショートヘア、10歳、メス避妊、4.7kg
唇に潰瘍性病変が見られていました。

・お腹の皮膚炎として見られた猫アトピー性皮膚症候群(FASS)の猫
・ミックス猫、13歳、♂去勢、4.8kg

腹部の皮膚病変からは下の写真のように好酸球が多数見られていました。

5.診断
FASSには、1回の検査で確定診断できる特異的な検査はありません。そのため、他の病気を一つずつ除外していく方法で行われます。原因を探すことができたら、治療に入っていきます。
まず最初は、
寄生虫の除外(ノミ、ダニ、疥癬など)
猫のかゆみでは特にノミアレルギーが多いため、ノミ予防は診断の過程でも非常に重要になります。疥癬やツメダニなどの寄生虫感染も鑑別疾患となります。
カビの除外
次に皮膚糸状菌症(カビ感染)を除外します。猫ではカビ感染がかゆみの原因になることもあり、ウッド灯検査やPCR検査、培養検査などを行うこともあります。
細菌やマラセチアの除外
慢性的な皮膚炎では、細菌やマラセチアといった微生物が皮膚に増殖し、炎症やかゆみを悪化させることもあります。そのため皮膚細胞診という検査で顕微鏡検査を行い、感染の有無を確認します。
食物アレルギーの除外
猫では食物有害反応がFASSと非常によく似た症状を示すため、約8週間の除去食試験を行い、食事による影響がないかを確認することもあります。
これらの原因を除外しても慢性的なかゆみが続く場合、猫アトピー性皮膚症候群と診断されます。
6.治療とケア
治療は「組み合わせ」が基本です。FASSは一つの薬だけで治る病気ではありません。症状の程度や体質に応じて、複数の治療を組み合わせながら長期的に管理していきます。まず基本となるのは皮膚の管理です。ノミ予防、二次感染の治療、皮膚バリアケアなどをしっかり行うことで、炎症を悪化させる要因を減らします。
・ステロイド剤
かゆみが強い場合には、一時的にステロイド剤を使うことはあります。猫アトピーの治療で最も即効性がある薬です。
炎症やかゆみを短期間で抑えることができるため、急性の症状が強い場合に使用します。一般的にはプレドニゾロンなどの薬が使われ、症状が落ち着いた後は徐々に減量していきます。
長期間使用すると
・高血糖(糖尿病)
・免疫力低下
・皮膚の変化
などの副作用が起こる可能性があるので、できるだけ最小限の量で使用することが大切です。
・免疫抑制剤
シクロスポリンは免疫反応を調整する薬で、猫アトピーの長期管理に使用されることがあります。リンパ球の一種の働きを抑えることでアレルギー反応をコントロールします。ステロイドの使用量を減らす目的で併用されることも多く、慢性症例では重要な治療選択肢となります。
副作用として
・嘔吐
・下痢
・歯肉の腫れ
などが見られることがあり、投与開始時には注意が必要です。
・分子標的薬
オクラシチニブ(商品名:アポキル)は犬のアトピー治療薬として開発された薬ですが、猫でも使用されることはあります。この薬は インターロイキンIL-31というかゆみを引き起こすサイトカインの働きを抑えることで、かゆみを軽減します。比較的速やかに効果が現れることが特徴です。
猫では正式な承認がないため、使用する場合は飼主様の同意を得て、獣医師の慎重な判断のもとで行います。近年では猫アトピーに対して有効な事例も多く報告されています。
・皮膚ケア
非常に重要で、ノミ、ダニ予防、二次感染の治療、スキンケアだけでも症状が軽くなるケースもあります。当院では、皮膚環境を清潔にする補助的なケアとしてマイクロバブルバス&スキンケアをお勧めしています。
皮膚疾患における補助的なケアとして積極的に取り組んでいます。
7.当院における実際の事例紹介3例
事例1:慢性的な皮膚炎がステロイドなどで改善した事例
ミックス猫、4歳、避妊雌、3.5Kg
内股部や頚部のびらん、脱毛、痒み
・先週から首の皮膚を搔き、出血している、治りかけると搔くとのことで来院。首だけでなく、内股部、後肢も同様の経過。
・ブラシスタンプ検査では球菌、赤血球が見られました。ステロイド剤、抗生剤の投与を中心に行い良化の経過を示しています。たびたび再発することから、シクロスポンなどの組み合わせでも対応しています。効果は出ますが、繰り返すことはあるため、コントロールしながら良い状態を維持できるようにしています。

事例2:頚部の皮膚炎がアポキルで改善した事例
ミックス猫3歳、去勢雄、4.7Kg
頚部の痒みとびらん
・首回りが皮膚炎のようになっていて赤く、よく搔いているとのことで来院。頚部に痂皮とびらんを伴う皮膚炎が認められました。消毒や外用薬で治療を行いましたが、改善が乏しかったため、FASSを疑いアポキル(オクラシチニブ)による治療を始めたところ、1か月ほどで痒みが減り、皮膚の症状も改善してきれいになりました。

事例3:左前肢の脱毛がアポキルの治療で改善した事例
ブリティッシュショートヘアー、6歳、去勢雄、6.3Kg
脱毛
・両前足やおなかをよく舐めて、毛が薄くなってきた。他院様で食物アレルギーを疑い食物アレルギー用の食事をあげていたが、良くならなかったとのことで当院へ来院。
両前肢が対称性に脱毛しており、食物アレルギーに対する治療に効果が見られなかったことから、FASSを疑いアポキルによる治療を開始しました。2週間後の診察時には舐める頻度が大幅に減って、脱毛部には発毛が見られていました。2ヶ月後には脱毛は目立たないくらいにまで改善しており、飼主様もとても喜ばれていました。

8.東京ウエスト動物病院の皮膚科診療とゴール
受診のタイミングは、2週間以上続く痒み、同じ場所を繰り返し舐める、ステロイドをやめると再発するなどです。上記のような印象がある際は早めの受診をお勧めいたします。
皮膚は悪化すると、治療期間が長くなったり、薬の種類が増えたり、悪化し複雑になる傾向があります。早期対応は最も負担を減らせます。
先ずは、痒みを止める → 原因の絞り込み → 治療開始 → 効果判定 → 維持管理の流れで進んでいきます。
当院では
・皮膚検査(視診、採材・顕微鏡検査、病理検査、培養・感受性試験など)
・真菌検査(ウッド灯、採材・顕微鏡検査など)
・食事試験
・アレルギー評価
など、猫それぞれに合った診療をご提供いたします。
検査や治療内容により費用は異なりますが、段階的にご相談しながら進めていきます。
皮膚病は飼主様と病院の二人三脚の歩みです。一緒に猫の快適な生活を目指していきましょう。完全にゼロにするというより、“症状をコントロールして快適に生活できる状態を目指しましょう。
9.なぜ治らないのか?
FASSは体質(免疫の反応)による病気です。そのため、良くなる ➡ 再発する を繰り返すことがあります。原因を完全に取り除けないところに難しさがあります。私たちの経験でも、良化後、数週間から数ケ月後に同じ症状で再来院される方もおられます。これは「治療が失敗している」のではなく、病気の性質として自然な経過です。
9.長期管理と自宅ケア
猫が舐めている? は“かゆみ”のサインかもしれません。「毛づくろいの行動が多いだけ」と思っていたら実は皮膚病だったというケースはとても多いのです。
飼主様がご自身でできることもあります。
・ノミとダニの予防はご自身でできます。室内猫だからこそ大切です。
・部屋やケージの掃除はアレルゲンを減らす効果を期待できます。
・食事管理で食物アレルギー対策ができます。食後、舐める、搔く、吐く、軟便などにつながるフードは止めましょう。
・ストレスのケア:猫の皮膚はストレスの影響も受けます。栄養たっぷりでおいしいフード、飼主様の愛情、ワクチン接種などはストレス緩和に有効的に働きます。温度・湿度、季節の変わり目、他の猫との関係、新しい猫との同居、引っ越しなどはストレスの誘因になります。気をつけてあげてください。
・シャンプーも補助ケアとして効果的です。当院ではマイクロバブルバス&スキンケアを提供しています。
10.まとめ
FASSは、
* アレルギー体質を背景として起こる慢性的な皮膚疾患です
* 症状は多様でいくつかの病態が混在することもあります
* 完治させ、再発がないようにすることは難しい病気ですが、うまくコントロールする
ことで、快適に生活できるようになります。
院長コメント:FASSは「治らない」と思われがちですが、正しく診断し、適切に管理すれば生活の質は大きく改善できます。治らない病気ではなく、“うまく付き合っていく病気”として、丁寧にサポートさせていただきます。当院では猫の慢性皮膚病の診療に力を入れています。猫のかゆみは原因が複数重なることも多いため丁寧な診断が重要です。気になる症状があれば早めにご相談ください。
東京ウエスト動物病院 院長 江島博康

Web問診はこちら – 東京ウエスト動物病院 TEL:042-349-7661 FAX: 042-349-7662
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