犬の甲状腺機能低下症 – 症状、品種、診断、病態、ホルモンの種類、検査、治療、この病気との付き合い方|東京ウエスト動物病院|東京都小平市学園東町の動物病院

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犬の甲状腺機能低下症 – 症状、品種、診断、病態、ホルモンの種類、検査、治療、この病気との付き合い方

今回は、日常の診療でよく遭遇する犬の甲状腺機能低下症について、私自身の臨床経験も交えて簡単に紹介致します。

甲状腺は頚部に位置する組織で、生きるためにとても重要な甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンは、新陳代謝を促進させ、脈拍数、体温、自律神経などの働きを調節したり、胎児の発育や幼犬の成長にも重要な役割を持っています。
犬の甲状腺機能低下症は甲状腺組織の機能障害から甲状腺ホルモンの合成および分泌能が低下することで様々な症状が見られる全身性の疾患です。

1.症状
肥満(ごはんをあまり食べていないのにだんだん太ってきた)、食欲不振、左右対称性脱毛、皮膚の乾燥感、色素沈着(皮膚が黒ずむ)、毛がバサバサと粗くなる、無気力(活動性の低下、元気がない、散歩が好きだったのにあまり歩きたがらないなど)、が見られます。特に、、尻尾の先の毛が薄くなってきた(ラットテイル)などの症状が見られた場合には甲状腺機能低下症を疑います。ひどくなると、無発情、巨大食道症、徐脈、治りにくい膿皮症、前庭疾患(顔が傾く、クルクル回る)、神経症状(顔面神経麻痺、交感神経異常など)、ついには、発作(全身性の神経症状)が見られることもあります。下の画像は、甲状腺機能低下症の子で両目の瞬膜が出てホーナー症候群を思わせるような症状を呈していました。

ホーナー症候群様の症状を呈した甲状腺機能低下症の子
両目の瞬膜突出が顕著でホーナー症候群様の症状を示します。
甲状腺機能低下症の改善と共に瞬膜の突出は消失しています。

2.品種
7歳以上の中型犬から大型犬でよく見られます。ビーグル、シェルティー、リトリーバー、ハスキー、ドーベルマンなど、また、高齢の小型~中型犬(チワワ、ポメラニアン、テリア、ヨーキー、ミニチュアダックス、シーズーなど)でもよく見られる病気の一つです。

3.診断
甲状腺機能低下症が疑われる症状が見られた場合、一般血液検査の結果から内分泌系のホルモン検査の候補を絞り込んでいきます。肝・胆嚢系酵素の上昇や腎機能検査の異常が見られた場合や、軽度の貧血(あるいは徐々にヘマトクリット値が低下してきている)および高コレステロール血症が確認された場合には甲状腺ホルモン検査を行うことが勧められます。

4.病態
原発性甲状腺機能低下症と続発性甲状腺機能低下症が知られています。多くのケースは前者と言われています。
(1) 原発性甲状腺機能低下症:自己免疫性とされるリンパ球性甲状腺炎ともう一つは原因が特定できない特発(とくはつ)性甲状腺萎縮が知られています。前者の末期状態が後者のタイプではないかとも言われています。

リンパ球性甲状腺炎:自己免疫反応で甲状腺が破壊されるもので、遺伝的素因が関係しているとも言われています。その原因はまだ不明です。

特発(とくはつ)性甲状腺萎縮:甲状腺組織がなぜか萎縮していくタイプで、原因はよくわかっていません。前者のリンパ球性甲状腺炎の末期の状態ではないかとも言われています。

(2) 続発性甲状腺機能低下症:稀ですが、下垂体や視床下部の外傷や腫瘍などに由来する場合があります。ほかに、甲状腺の腫瘍に由来する組織破壊や先天性の機能低下症も知られています。

5.ホルモンの種類
甲状腺ホルモンにはT4(サイロキシン)とT3(トリヨードサイロニン)があり、これらは脳の 下垂体前葉から分泌されるc-TSH(犬甲状腺刺激ホルモン)
の刺激によって甲状腺から分泌され、甲状腺ホルモン(血中サイロキシン)濃度のフィードバックをうけています。T4およびT3の99%以上は血液中ですぐにタンパク質と結合し、貯蔵用としてプールされ、FT4(血清遊離T4)およびFT3(血清遊離T3)といったタンパク質と結合していないわずかなホルモンが実際に体の代謝に作用します。

6.検査
甲状腺ホルモン検査は採血した血液で行われます。甲状腺の機能を適切に評価できる項目としてT4が測定されますが、T4は甲状腺以外の病気や薬剤の影響を受けて低下することがあるため、他の病気の影響を受けにくいFT4を一緒に測定することによってより診断精度を高めることができます。

また、c-TSHは甲状腺ホルモンが低下していることを脳が感知して分泌されるホルモンなので、c-TSHの上昇とT4およびFT4が低下していることが確認されれば甲状腺機能低下症をほぼ確定診断できます。ただし、甲状腺機能低下症の犬の約1/4はc-TSHの上昇が見られないため、単独での測定はあまり意味がありません。

下の表に当院で測定を行っている甲状腺ホルモンの種類とその基準値を示し、右側には甲状腺機能低下症の犬で得られたその時のホルモンの値を示しました。これはまさに典型的な数値で、これをもって甲状腺機能低下症と確定診断できるものです。

当院での甲状腺ホルモンの種類、基準値と実際の甲状腺機能低下症での数値を
比較したものです。T4値とFT4値は共に低く、c-TSH値は高くなっています。
この数値で本症の診断は確定となります。

7.治療
甲状腺機能低下症の治療は、合成T4製剤(レボサイロキシンナトリウム)を経口投与することによって行われます。投与開始から2~4週間後に血液検査(甲状腺ホルモン検査、貧血やコレステロールなどの確認)を行い、用量の調節をしていきます。残念ながら、完治は望めない病気ですが、ホルモン補充療法は極めて効果的な治療法です。

投与量が足らないと甲状機能低下症は続いてしまいます。逆に、投与する量が多すぎると甲状腺機能亢進症という疾患を引き起こしてしまいます。このため、数週間から数ヶ月おきに定期的な血液検査やホルモン濃度の測定を行いながら適切な血中濃度を維持し、コントロールしていくことになります。

病状によって異なりますが、改善兆候が出るまでの期間は、
1.活動性の低下は1週間以内に、
2.高脂血症や貧血傾向は数週間以内に、
3.皮膚症状や末梢神経症状の改善には数ヶ月間を
要することもあると言われています。

8.この病気とのつき合い方
早期発見、早期治療が大切なものとなります。予防は大切なことですが、原因が不明であったり、先天的なものであったりと、発症
に気づきにくい点があることから、具体的な予防方法があるわけではありません。年齢、品種、下記の症状などを参考に、ふだんの生活の中で、定期的な健康診断や本症の疑いを感じる時には血液甲状腺ホルモン濃度を測定し、早期発見、早期治療を心がけましょう。

「散歩に行きたがらない」「元気がない」などの症状がでても「年のせい」だから仕方ないと考えられてしまうことは多く、そのような飼主様の言葉を耳にすることは多くあります。ペットは痛みを「じっと我慢」していることも実は多いのです。そのようなつらさから少しでも開放させてあげるには、ちょっとのことでも「最近なんだかおかしいな」と思ったら診察を受けてみると良いでしょう。

体を上手く動かすホルモンが出なくなる病気ではありますが、予後は良好なことが多いです。ダメージを受けた甲状腺組織の回復は見込めないので、生涯にわたって投与を続けていくことは必要です。
一方、他の病気の影響で発生した甲状腺機能低下症の場合には、その基礎疾患を治療することによりホルモン製剤の投与を中止できる場合もあります。TSWeb問診はこちら – 東京ウエスト動物病院
TEL:042-349-7661   FAX: 042-349-7662
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