トーキョーウエストブログ
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今回は、内容がかたくなってしまいますが、できるだけわかりやすく述べたいと思います。
角膜浮腫の改善を目的としたGundersen球結膜フラップ手術について紹介します。日本語ではガンダーセン、ガンダーソンなどと表記されています。Dr. Trygve Gundersenはスカンジナビア系のアメリカ人(1902~1987年)で、マサチューセッツ州で眼と耳の診療所を開いていた医者です。
彼は、角膜の浮腫を改善させる手術テクニックを1960年に報告しています。
Surgical treatment of bullous keratopathy. Arch. Ophthal. 64, 260, 1960.
今回の記事は、角膜浮腫(水疱性角膜炎)についての紹介記事ですが、外科的治療にGundersen球結膜フラップ手術を使用した当院での事例を添えて紹介してみました。
1.そもそも角膜浮腫とは角膜の実質内に水分が溜まった状態のことを指すのですが、最も内側にある角膜内皮の部分が障害され、その機能が落ちて、角膜に浮腫(むくみ)、白濁が生じた状態のことです。この病気、角膜浮腫(水疱性角膜症)はペットのほか、人でも発症します。犬の左目の角膜浮腫
猫の右目の角膜浮腫
犬の左目の角膜浮腫
2.角膜内皮細胞は角膜のどこにあるの、そしてその働きとは
角膜内皮細胞の位置は、角膜の最内側、前眼房の房水がある部分に面しています。角膜の奥深い所にあるわけです。この細胞は一層構造といわれ、例えればサランラップのようなとても薄い膜で裏打ちされているようなものです。
角膜内皮細胞はここ!
角膜内皮細胞は房水が溜まっているエリア(前眼房)に接しています。その房水が内皮細胞を通って角膜の中に浸透していくのは当たり前のことと言えます。そして入ってきた水分と同じ量を排出させてもいます。このバランスを取り角膜内は脱水状態に保たれます。
この脱水状態を保つことが大事で、これにより光はまっすぐに角膜内を進むことができると言われています。
角膜は必要以上の水分が浸透してしまうと、角膜の透明度が下がり白濁します。角膜の透明度を保つには、内皮細胞がきれいに規則正しく並んでいる必要があるのですが、水分によって膨張してしまったり、病気によって細胞数が減りその機能を維持できなくなると角膜の透明度は落ちて白濁は強くなります。重度な場合は、水分が溜まる部分が大きくなり角膜が膨らんで見えることもあります。
角膜内皮細胞は、角膜の透明度が落ちないように、余計な水分を眼球内に排水するという働きをもっていて「排水ポンプ」のような仕事をしているとも例えられます。
3.かかりやすい年齢や品種
どの年齢でも発症する可能性はあります。ウイルス感染では生後数ヶ月齢の若い子でも見られます。特定の品種に偏って発症することは知られていません。また、片眼性は多いですが、両眼性にも発症します。
4.原因は
原因には、ヘルペスウイルスなどによる感染症、処方薬による毒性(長期にわたるステロイド剤やシクロスポリンの投与など)、角膜移植や白内障手術などによる手術操作関連、目の損傷、不十分な水分補給、角膜内皮の障害、また、原因がはっきりしない特発性(とくはつせい)、ブドウ膜炎、年齢など多岐にわたります。遺伝性の角膜実質姓のジストロフィーや瞳孔膜遺残に関連したものも知られています。人ではコンタクトレンズによる酸素不足も挙げられています。
5.症状
何よりも辛い症状は、痛み(眼痛)、涙(流涙)、異物感(不快な自覚症状)とされています。見えにくさ(視力の低下)もあります。角膜白濁の程度は様々です。軽度なものから重度なものまで見られます。
重度なものでは、下図のように、お餅を焼くときにプ~ッと膨らむ時がありますが、あのように突出してくることもあります。こうなると瞼を閉じることはできなくなり、違和感は大きなものになるでしょう。また、突出部は空気に触れて乾燥しやすくなり感染も引き起こされます。痛み、炎症、腫れなどの症状は悪循環を繰り返すことになってしまいます。
極めて重度な犬の角膜浮腫
症状は下図のように軽度なものから重度なものまで様々です。
軽度~中等度の角膜浮腫
重度な角膜浮腫
重度なケースでは、経過に伴ってだんだんと悪化することが多いです。
6.治療
原因の如何に拘わらず、治療がうまくいかない最も悲惨な病状の1つであるとDr. Gundersen は指摘しています。
治療には、点眼や全身投与による内科的な方法と手術による外科的な方法があります。
6-1.内科的な治療
高張の溶液や軟膏の点眼、眼圧降下剤などがあります。しかし、効果が的確で長期間期待できるものはありません。
外来でできる処置になりますので、この項で述べますが、当院でよく使う方法は、上下のまぶたを利用する眼瞼フラップ処置(外来での医療ボンドでの接着で鎮静や麻酔は使いません)です。利点、欠点それぞれありますが、とても利用しやすい良い方法として使っています。
下記の記事もご参照下さい。
・犬、猫の角膜潰瘍の外科的治療ー目に強い東京ウエスト動物病院
・角膜フラップ手術の考え方 – 2009年06月29日
6-2.外科的な治療
麻酔は必要になりますが、治癒に向けての確実性は高くなります。
角膜表層の焼灼、角膜移植、瞬膜・球結膜フラップ術、コンタクトレンズの装着などいくつかの方法があります。
当院では、角膜病変の状況を見て、
・眼瞼フラップ処置(外来での医療ボンドでの接着)、
・瞬膜・球結膜フラップ手術、
・Gundersen フラップ手術などを使い分けています。
このような中で、Gundersen フラップ手術は角膜の浮腫を球結膜組織の血管を利用して角膜実質内に溜まる水分の吸収を図る(角膜の白濁を改善させる)ユニークな手術法です。
この手術は角膜実質内の水分を吸収させる方法で、浮腫、白濁の改善を計るという点で優れた方法と言えます。眼痛を始めとした症状の緩和を始めとして、視力を改善させるという点でもとても優れた術式と思います。
今回、紹介する角膜浮腫の事例は、チワワ、10歳、♂去勢済み、2.3Kg の子です。右目に角膜内皮障害による角膜浮腫が見られます
手術前の状態です
内科的治療では改善なく、
眼内外の痛みが強くなってきたため、
Gundersenフラップ手術を行うことになりました
角膜浮腫の表層を半分切除したところです
切除した角膜表層部分を覆えるほどにはく離した球結膜を移動させ、
縫合したところです
手術はマイクロサージェリー、手術用顕微鏡下で行います
以下は、Gundersen球結膜フラップ手術前後の比較画像です。術後45日目でもまだ角膜の白濁(浮腫)はありますが、だいぶ改善は見られています。何よりも眼内痛の痛みから解放されたことは大きな成果と思います。視覚の点でも改善は見られています。今後も経過観察を続けていきます。
下の画像は、細長い(スリット)光で観察したものです。手術前は白濁が強く、眼内は見通せません。45日目ではまだ白濁はありますが、角膜浮腫の改善、前房、虹彩、瞳孔の視認は可能となって改善は見られています。
7.予防と対策
的確な予防方法はありません。角膜内皮障害の原因が明確になっていないという背景があり、対策を取ることは難しいでしょう。ただ、目の内外に病気(炎症)があれば、正しく対応してその負荷をできるだけ排除する方がいいと思います。角膜の感染症や代謝障害、結膜の感染症や炎症、眼内の炎症(ブドウ膜炎など)、白内障、緑内障などの病気があります。ふだんから点眼薬や飲み薬などを用いた目の治療やケアが大切と思われます。
8.角膜浮腫との向き合い方
いつ発症するか予測はつかないので、予防していくことは難しいです。目に異常がないか、定期的な眼科検査はお勧めしたいと思います。角膜の代謝を健全な状態に保つ上でも目の検査やケア(ヒアルロン酸の点眼など)は大事なことと思います。
東京ウエスト動物病院では、眼科検査を受けていただき、どのような状態にあるかを評価致します。その上で、個々の子に合った角膜の健康を保つオーダーメイドケアを提案して参ります。
下記の記事もご参照下さい。
・犬、猫の角膜潰瘍の外科的治療ー目に強い東京ウエスト動物病院
・角膜フラップ手術の考え方 – 2009年06月29日
Web問診はこちら – 東京ウエスト動物病院 TEL:042-349-7661 FAX: 042-349-7662
Gundersenフラップ手術に強い東京ウエスト動物病院