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猫の目が黒くなってきた、黒い斑点がある、このまま大丈夫なのか心配 —— このようなご相談で来院される飼主様は少なくありません。
猫の目が黒く見える原因の一つに角膜分離症(角膜黒色症)があり、角膜黒色症、ミイラ変性、巣状変性などさまざまな呼び方があります。進行すると角膜が黒くなり、見た目にも大きな変化が出る病気です。
しかし実際には、この病気は突然黒くなるわけではありません。
当院での長年の観察では、黒くなる前に“黄色の変化”が現れることが分かっています。
本症は、重度なケースで来院されることが多く、そのためか「新生血管がたくさん見えるから、そこから何かが来ているのでは?」と考えられることも多いのですが、果たしてこの理解は正しいのでしょうか?
当院で長年観察してきた症例では、この病気はいきなり黒くなるのではなく、最初に角膜の中に現れる“ごく淡い黄色の変化”から始まります。
この段階では、血管の侵入は見られず、角膜の表面(上皮)もまだ正常な状態です。
つまり、黒く見える変化や血管の侵入は、病気の原因ではなく、その後に起こる変化である可能性が考えられます。では、猫の角膜分離症はどのように始まり、どのように進行していくのでしょうか?
この記事では、当院での過去40年以上にわたる眼科診療の経験の中で、初期から重度までの変化を順に追って整理しながら、この病気の発症機序についてわかりやすく解説していきます。
1.はじめに
猫の角膜分離症は、ペルシャ、ヒマラヤン、シャム、日本猫などに多く見られる角膜の変性性疾患です。しかし現在でも、その発症機序は明確には解明されていません。
当院では長年にわたり眼科診療に携わる中で、多くの症例を経験してきました。本疾患は進行した状態で発見されることが多く、初期からの連続的な変化を捉えた報告は極めて限られています。
そこで今回は、病期ごとの臨床所見を提示しながら、その発症の流れについて考察します。角膜分離症は、突然黒くなる病気ではありません。最初に見られる変化は、角膜上皮下に出現する淡い黄色〜黄褐色(琥珀色)の変化です。
この段階では
・疼痛はほとんど認められません
・角膜上皮は保たれており、スリットランプでも滑らかな上皮ラインが確認されます
・輪部からの新生血管侵入も認められません
すなわち、この 「黄色の変化」 こそが、本疾患の最初のサインです。
2.事例
ヒマラヤン6例、ペルシャ2例の計8例でした。年齢は1~7歳で、すべて室内飼育でした。性別はオス4例、メス4例、片眼性6例、両眼性2例でした。
軽度(初期)~重度に分けた内容は以下の表の通りで、軽度(初期)2例、中等度2例、重度4例でした。
軽度(初期)から重度の分類は、角膜の色調変化、病変範囲、新生血管の進展度を指標として当院独自に分類したものです。重度症例が多かった背景として、紹介症例を含み、臨床的には進行後に受診される傾向があることが示唆されました。
3.グレード別の目の所見の比較
■ 軽度(初期)
下の画像は、ヒマラヤン、♂、5歳の初期病変です。
スリットランプでは、角膜上皮下に透明感のある淡い黄色調の変化が確認されます。
この段階では上皮は保たれており、疼痛や明らかな違和感はほとんど認められませんでした。
■ 中等度
下の画像は、ヒマラヤン、♂、1歳の中等度病変です。
病変が進行すると角膜上皮は剥離し、フルオレセイン染色で陽性となることから、角膜潰瘍の形成が確認されます。
この段階では、まだ新生血管の侵入は認められない場合もあります。
つまり、角膜障害(上皮障害)が先行することが示唆されます。

下の画像は、ヒマラヤン、♀、1歳の中等度病変です。
色調がより濃くなり、新生血管の侵入が確認されます。このことから、新生血管は“後から出現する反応”である可能性が考えられます。
■ 重度例
下の画像はペルシャ、♂、2歳の重度例です。
本症例では、両目に先天性の眼瞼形成異常が認められましたが、同様の異常がある左眼には角膜分離症の病変は認められませんでした。このことから、本疾患の発症を単純に説明することは困難でした。
また、重度例では新生血管の増生が顕著に認められますが、これらは病変の進行に伴う二次的変化と考えられました。
下の画像はヒマラヤン、♂、2歳の重度例です。
多くの症例はこの段階で来院されることが多く、内科的治療を行う場合もありますが、疼痛を伴う場合には外科的治療が推奨されます。

4.当院症例から推察される発症機序
当院で観察した症例では、初期病変として角膜上皮下に黄色〜黄褐色(琥珀色調)の変化が認められました。この段階では角膜上皮は保たれ、輪部からの新生血管侵入も確認されませんでした。
その後、病変の進行に伴い角膜上皮障害や潰瘍化が生じ、さらに進行した症例で新生血管の侵入が認められるようになりました。これらの経過から、新生血管は発症の一次的要因ではなく、病変進行に伴う二次的反応である可能性が示唆されます。
角膜の黒色物質の本態については、血液由来成分、鉄、メラニン、涙液成分などの関与が考えられています。本検討ではベルリン青染色により三価鉄の関与を評価しましたが、明らかな染色性は認められず、鉄沈着を積極的に支持する所見は得られませんでした。一方で、メラニン関与を支持する既報と当院所見との間に大きな矛盾は認められませんでした。
なお、猫の角膜分離症の発症機序は現在も完全には解明されておらず、慢性的な角膜刺激、眼瞼異常、涙液異常、既往の角膜障害、猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)など、複数因子の関与が指摘されています。
以上より当院では、本症は角膜内で生じる一次的変化が先行し、その後に上皮障害および血管新生が続発する病態である可能性を考えています。
5.当院での治療対処法(考え方)
軽度〜中等度の段階では、角膜の厚さや潰瘍の有無、疼痛の程度を評価しながら、内科的管理で経過を観察できる場合があります。
内科的管理では、点眼治療(抗菌薬、消炎薬)や角膜保護、自己外傷防止(エリザベスカラー装着など)を行い、病変の進行抑制と角膜の安定化を図ります。
一方、中等度〜重度例では、潰瘍形成や上皮欠損に伴い強い疼痛を伴うことが多く、進行すると角膜の菲薄化や穿孔のリスクが高まります。このような場合には、外科的治療の検討をお勧めすることがあります。
手術は、疼痛の軽減、病変の進行抑制、角膜穿孔の予防、視軸の保護を目的として行います。
術式は、黒色病変の切除後の角膜の厚さや欠損範囲、支持性を考慮し、以下の方法から選択します。
■ 角膜表層切除術のみ
■ 角膜表層切除術+瞬膜・球結膜フラップ術
■ 角膜表層切除術+角膜ディスク縫着+瞬膜・球結膜フラップ術
■ 球結膜フラップ手術
術後は多くの症例で疼痛の改善が得られますが、再発する場合もあるため、長期的な経過観察は必要となります。
6.最後に
本記事は、当院における長年の臨床経験と症例観察に基づいてまとめたものです。当院の観察では、猫の角膜分離症は突然黒色化するのではなく、まず角膜上皮下に透明感のある淡い黄色〜黄褐色(琥珀色調)の変化が現れ、その後に上皮障害や新生血管侵入が続く経過をとることが示唆されました。
この経過から、新生血管は発症の一次的原因というより、病変の進行に伴って生じる続発性変化である可能性が考えられます。
本症の発症機序にはなお不明な点は残されていますが、病変の“見え方の順序”に注目することは、従来見過ごされがちであった初期変化の理解につながり、早期診断や治療方針の判断に有用であると考えられます。
特に、黒くなる前にみられるわずかな黄色調の変化は重要なサインであり、この段階で気づくことができれば、より早い段階での対応が可能になります。当院では、この初期変化の段階からの評価を重視しています。
日常の中で「少し色が違うかもしれない」と感じた時には、早めにご相談いただくことが大切です。
参考文献:
1.猫の角膜分離症:その臨床像と病理組織的所見 江島博康他 JSAVA 32(2) 3-10 1992_2.pdf
https://tokyowest-ah.blog.jp/%E7%8C%AB%E8%A7%92%E8%86%9C%E5%88%86%E9%9B%A2%E7%97%87%E3%80%80JSAVA%2032(2)%203-10%20%201992_2.pdf
2.猫の角膜分離症で角膜が黒くなるのはなぜ?サンプルによる実験的分析 – 獣医眼科フォーラム
Feline corneal sequestrum: laboratory analysis of ocular samples from 12 cats
Featherstone HJ, Franklin VJ, Sansom J. Vet Ophthalmol. 2004;7(4):229-238. doi:10.1111/j.1463-5224.2004.04029.x / PMID:15200619
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15200619/
https://jvof.net/15200619/
3.異種角膜全層移植により治療したネコ角膜壊死症の一例 – 獣医眼科フォーラム
Feline Corneal Sequestrum Martin Coster、mspca angell
https://www.mspca.org/angell_services/feline-corneal-sequestrum/
4.Feline Corneal Sequestrum
Martin Coster
https://www.mspca.org/angell_services/feline-corneal-sequestrum/