トーキョーウエストブログ
TOKYO-WEST-BLOG
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1.肥満細胞腫(Mast Cell Tumor)とは
肥満細胞腫は、犬の皮膚腫瘍の中ではしばしば見られる腫瘍です。血液中の肥満細胞(好塩基球)が腫瘍化、異常増殖して、しこりを作ったり、リンパ節や全身に転移する病気です。
見つけるポイントは、ふだんからのスキンシップだと思います。皮膚の小さなしこりとして見つかることが多いです。最初は、小さいことと毛の中に埋もれたようになっていますので、わかりにくいと思います。
しこりの大きくなるスピードが早い場合は、動物病院に相談されることをお勧めします。
皮膚に見つかった2個の肥満細胞腫
肥満細胞腫は、腫瘍細胞の中に顆粒をたくさん含みます。また、腫瘤を細針生検などで刺すと細胞が破れて顆粒が周囲に飛び散るように広がります。
細針生検で採取された肥満細胞腫
ヒスタミンなどの化学物質を含んだたくさんの顆粒が見られます
肥満細胞は免疫細胞の一種であり、その顆粒からサイトカインと呼ばれる化学物質を放出しやすい性質があります。場合によっては吐き気や食欲不振などの消化器障害を伴うこともあり、重篤な場合にはショックを引き起こし危険な状態になることさえあります。
罹患犬の平均年齢は8歳で、好発犬種は、ビーグル、パグ、ダックス、テリア系などとされています。
一方、猫では、皮膚にできることもありますが、犬とは異なり内臓、特に腸や脾臓とよばれる臓器系に発生することが多いとされています。
2.検査・診断
皮膚の腫瘤に対して細胞診を行います。細い針の付いた注射器で刺入し、細胞を採取します。染色して顕微鏡検査を行い、下図のような顆粒を持った細胞が確認できれば確定診断となります。
顆粒を含む肥満細胞
肥満細胞腫は悪性腫瘍です。その悪性度は低グレード1、中グレード2、高グレード3の3種に分けられ、低グレード1は悪性度は低く、グレード3は最も悪性度が高くなります。余命も短くなります。
3.治療について
第一義的には、手術での摘出となります。この際、腫瘍周囲(縦、横、深さ)の正常組織を一定程度余分に切除する必要があります。取り残しがないように十分留意する必要があります。
また、抗がん剤の使用については、
などが挙げられます。
分子標的薬や抗がん剤による治療方法もあります。分子標的薬では、c-kit 遺伝子変異検査の結果によって効果に差がありますので、この検査を併用します。c-kit 遺伝子変異検査は、特定の分子標的薬に効果が期待できるかどうかを判定するものです。効果が大きいと期待できる結果であれば、選択するのも1つの方法です。著効が期待できない可能性であるという場合であれば、摘出手術を第1選択と考えた方が良いでしょう。
4.当院の症例
ここで紹介する子は、パグ、5歳、去勢♂、8.6Kg の子です。
主訴は 1ヶ月半ほど前から右前肢の関節が腫れているとのことでした。痛みを訴えることはありませんでした。今回が初発の腫瘍です。
右前腕部のしこり
シコリは、右前肢の前腕部分にあり、柔らかいものでした。発赤はありません。指で持つと割と大きなシコリとして存在してい
シコリの拡大写真
割と大きなシコリです
細胞診を行うと、細胞質に顆粒を豊富に含む肥満細胞が確認され、肥満細胞腫と診断されました。イヌc-kit 遺伝子変異検査では、抗がん剤の効果は低いとされる結果でした。
抗がん剤治療は行わず、手術による摘出術をお勧めし、了解の元に、前検査、手術へと進めていきました。
細針生検を行っているところ
採取された肥満細胞
前検査は、麻酔をかけても大丈夫か、手術を行っても体調面で大丈夫かというところを確認するために実施します。一般身体検査、血圧、血液検査、レントゲン検査、超音波エコー検査、心電図検査など行いましたが、この子では障害となる所見は見られませんでした。
手術は、下の写真のように進めていきました。大事な点としては、鎮痛処置があります。できるだけ完全な切除を行うためには、腫瘍周囲(縦、横、深さ)の正常組織を広く取る、特に、深さについては筋膜を含めて取ることが大切です。このことで、理想的な手術に近づけることが可能となります。今回もそこのところに十分留意して手術を行っています。
マージンを取り、マーカーで切開線を決めます
手術の始まりです
腫瘤の下に当たる筋膜部分を丁寧に切除します
鎮痛処置は術中も行っていきます
この子では、皮膚に余裕がなく、単純には寄せられませんので皮膚切開をいくつも入れて皮膚を伸ばすようにして縫合を進めていきました。
縫合を終えたところ
周辺の皮膚には切開創がいくつも作ってありますが、
これは寄せる皮膚に余裕を持たせるための処置です
術部にバンデージやネットを巻いて患部を保護します
手術を終えたところです
術後も、鎮痛処置を施しながら酸素ルームに2時間ほど置いて麻酔の覚醒を促していきます。
ICUの管理下に置いて見守ります
手術は無事に終えることができました。
今回の事例はパグの子でしたが、パグは肥満細胞腫の好発犬種に入っています。多発傾向が強いものの(報告では25頭中14頭、56%)、ほとんどの病変(94%)が低~中グレードであり、比較的良性の挙動を取ることが多いとされています。パグのこのようなケースでは完全切除によって治癒することもありますので、術後の抗がん剤は選択しない場合もあります。
また、時期をおいて別の部位に出てくることもよくあるので、今後のモニター継続が大切です。
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